東京高等裁判所 昭和26年(つ)3434号 判決
刑事訴訟法第三百一条は憲法や刑事訴訟法が被告人の自白のみによつてこれに有罪の言渡をすることができないことを規定しているのに鑑み、自白に関する証拠が他の証拠に先立つて取り調べられると、これによつて裁判所がある程度の予断偏見を抱くおそれがあるから、自白に関する証拠は犯罪事実に関する他の証拠の取調が終つてからこれを為すべき旨を定めたのである。しかし、自白に関する証拠以外の証拠についてはその他の証拠との関係において、特にその取調の順序を規定した法規がないから、その証拠調は訴訟進行の経過に従い、裁判所の裁量によつて適宜にこれを為すことができるものと解すべきである。
ところで、所論、法務府民事局第六課の証明書並びに大田区役所の解答書は、いずれも、刑事訴訟法第三百一条所定の自白に関する証拠でないことは、その記載内容に徴して明らかであるから、その証拠調の施行については所論のような制限に従う必要はなく、又記録に徴しても、原審における右各書面の証拠調の施行について何等違法不当の点を発見することができない。又右各書証は、いずれも、原審が原判決挙示の自白に関する証拠の補強証拠として採用したものであることは、原判決及び右各書証の記載内容に照して明らかであるが、自白を補強すべき証拠は、必ずしも、自白にかかる犯罪事実の全部に亘つてもれなくこれを裏付けるものであることを要せず、自白にかかる事実の真実性を保障しうるものであれば足りるのであつて、右各書面はその記載内容に徴すれば、直接これによつて原判示事実を肯認することはできないのであるが、その各記載はいずれも被告人の自白にかかる原判示事実の真実性を保証することができるものであるから、原判決挙示の各自白の証拠とその補強証拠たる右二通の書面の各記載とを綜合して原判示事実を認定した原判決には何等所論の違法はない。
論旨は理由がない。